哲学を選択したランパードはケパを救うのか。第2節リバプール戦を振り返る

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皆さんこんにちは、私です。プレミアリーグが開幕して第2節、初のビッグ6同士の対決となったチェルシーvsリバプール。ともに苦しみながらも開幕節を勝利で飾り、連勝を狙った試合になりました。

カイ・ハヴァーツ、ティモ・ヴェルナーの新戦力を再び先発させたチェルシーは4-3-3をチョイス。リバプールは負傷者続出のCBにファビーニョを置き、目玉補強のチアゴ・アルカンタラは早くもベンチ入り。

結果は前半終了間際に退場者を出したチェルシーの数的不利を突き、リバプールが後半頭に先制。直後にケパのミスでリードを広げられました。その後は粘るチェルシーもPKを獲得するなど奮闘を見せましたが、ジョルジーニョが失敗。0-2でホーム開幕戦を落としました。

この試合は非常に特殊な展開だったと思います。そこで各ポジション、各ラインで何があったのかをその中の一人にフォーカスして振り返っていきたいと思います。そしてランパードの選択と今後の趨勢を少し展望してみます。

各ラインで何があったのか

DF アンドレアス・クリステンセン(CB)

前半終了間際に退場してしまう。抜け出しを図ったサディオ・マネに手をかけ、決定機阻止。レッドカードは妥当な判定だった。

ここまで拮抗した試合がだったことを踏まえれば、この1プレーでバランスが瓦解したのは間違いない。実際に彼が前半は抑えこんでいたFWロベルト・フィルミーノがアシストする形で先制点を奪われた。(前半唯一のフィルミーノシュートシーンも彼のカバーで難を逃れている)

もちろんレッドカード自体は褒められるものではなく、マネの狡猾さに出し抜かれた格好だ。しかし彼だけの責任ではないのもまた強調しておきたい。もっと言えば試合展開のせい、とも言える。お互いが睨みながら一つのスイッチ、プレス→奪取でゴール前まで最短距離で迫る試合だった。実際この直前にDFリース・ジェームスとDFマルコス・アロンソで敵GKアリソン・ベッカーにキャッチを強いらせていたのはチェルシーだった。

こういう展開になればしわ寄せが来るのがCBだ。サポートがいない中で1vs1に晒される機会が増え、難しい対応が増える。クリステンセンがマネに退場を誘われることになったが、これがCBファビーニョとWGティモ・ヴェルナーで同じことが起こっていた可能性は同等に存在するような試合だった。

繰り返すが、退場自体は褒められるプレーではない。一方で1プレーでガラッとひっくり返されるレベルの試合であったこと、そして展開の弊害でもあることは、殊更に強調しておきたい。

MF エンゴロ・カンテ(右IH)

両サイド、さらにはピッチの前後をカバーする驚異的な運動量を披露。持ち前の守備力はもちろん、攻撃や繋ぎにも関わる。カイ・ハヴァーツやヴェルナーと的確な距離感で絡んだ前半はエリア前にも顔を出し、危険なシーンを作り出した。

サッリ時代ぶりとなる、繋ぎも主要タスクに加えたIHでのプレーだったが、ワールドクラスの所以を示した。SBのジェームスとアロンソでは決して守備でのアドバンテージをとることはできないが、カンテがヘルプに来ることで相手のプレーの制限に成功していた。

一人少なくなった後半はさらにタスクが増えてしまい、位置が下がってしまった。それでも的確な散らしを仕掛けるリバプール相手に唯一ボール奪取を行える選手となり、少ない前線に捨てないで繋ぐ姿勢は見せた。

FW ティモ・ヴェルナー(左WG)

開幕節の1トップではなく、左WGとして先発出場。立ち上がりから鋭いドリブル突破を見せるなど身体のキレは健在。トレント・アレクサンダー・アーノルドに自由に蹴らせないというタスクも担い、守備での貢献度も非常に高かった。

まだ遠慮があるのか、シュートを打てるシーンでも躊躇する傾向がややあるが、それでも高い敵DFラインの裏を突くプレーや、落ちてきてハヴァーツとのパス交換からサイドを切り裂く。

後半はたった一人で攻撃を担うことになりながら、守備でのタスクも課されたままだったので早い時間から疲弊が強く滲んでいた。それでもたった一人で打開して2試合連続となるPK獲得をしてしまったのだから、強烈な個と言わざるを得ない。

わずか2試合ではあるが、既にチェルシーの中核になりつつあることを示したと言えるだろう。

MF カイ・ハヴァーツ(1トップ)

不慣れなWGでの初出場となった開幕節とは異なり、最前線で起用。その開幕節で、決して好調とは言えないものの80分まで引っ張られたおかげか、今日はスムーズな連携を披露。

上背を生かしたフリックや柔軟なボールコントロールで最前線の当てどころとなり、近いポジションのカンテやメイソン・マウントと流麗なパス交換。相手は世界屈指のCB、フィルジル・ファン・ダイクという中で、FWオリビエ・ジルーを硬とするなら軟のボールキープでチームに落ち着きと可能性をもたらす。

自身も隙あらば勝負のパスを供給するなど、いよいよ本領発揮を予感させる44分間を過ごしただけに、チーム事情で交代してしまったのは非常に残念だった。次節の爆発に期待。

GK ケパ・アリサバラガ

おそらく、チェルシーでのキャリアは終わってしまった。2失点目に直結するミスはこれまで浴びてきた批判とは比べ物にならない類のものであった。

あまりにも大きなミスであったことは間違いがないが、ただし、ただし、 それでもそれ以外のプレーは決して悪くなかったことも伝えておく。
勇気を持ったパスの繋ぎはケパ・アリサバラガの真骨頂であり、サッリ政権を思わせるような高精度のキックを何度も披露し、ハイプレスをかいくぐる一端であり続けた。
前述のハヴァーツがキープできたのも、勝ち目のない純粋な高さ勝負でなく、位置取りでの勝負に持ち込ませたケパの中弾道で精緻なキックがあったからである。

課題のミドルシュートでもいいセーブがあり、まだ不完全ながらハイボールを飛び出しで処理する積極性も見せた。

様々なプレーで加点を重ねていただけに、それをすべて無に帰し、大きなマイナスになるようなミスが起きてしまった。一人少なく、いつ次にボールが手元にやってくるかわからない、という状況で繋ぎたくなる考えは理解できるが。

チェルシーはレンヌGK、エドゥアール・メンディの獲得が決定的とも伝えられる。プレミアで彼を見る最後の試合になる可能性は非常に高い。

一方でまだわずかながら再起の目も残っているのではないかと私は考える。

監督 フランク・ランパード

前半44分までは狙い通りのサッカーだったのではないか。プレスを嵌め、危険なシュート自体は事故のようなフィルミーノへのこぼれだけだった。3人の中盤、ハヴァーツとヴェルナーのポジション含めたチョイスと布陣は機能していた。

そして勇気を持った繋ぎを植え付け、実行し、一定の効果をもたらした。

驚くべきはそれを一人少ない後半でも敢行しようとしたことである。
最前線にカウンター狙いのヴェルナーを置き、完全撤退を遂行する。あるいはジルーを投入しクリアも強引なキープをしてもらい、押し上げの時間を稼ぐという選択肢を持っていないはずがない。

それこそ完全撤退のカウンターで栄冠を掴んできたのはむしろランパードの方であり、なんならCBが退場した試合での成功体験も持っている側だ。

それでもランパードは、勇気と哲学を優先させた。結果的には失敗に終わり、バタつく間に2点を奪われることになったが。
(おそらく前半の奮闘もこの選択に寄与したはずだ。これがもっと押し込まれ、パスが繋がらない試合であれば別の選択をしたかもしれない。)もしも「セーフティに行く」と伝えればケパはあっさりと蹴りだしていたかもしれない。

交代はフィカヨ・トモリも含めロス・バークリーとタミー・エイブラハム。若い選手を投入した。

90分を見ていて感じたのはランパードはこれをシーズンの1試合と捉えていたのだろうということだ。一人少ない中でリバプール相手にやりたいサッカーを愚直に目指す、という選択。ここでの勝点1より将来に向けての経験をとった。

もちろんこれの正しさは判別しがたい。チェルシーはどんな試合でも現実的に勝ちを目指すべきという主張も、チームを成熟させながら未来の勝点を目指していくという主張も頷けるからだ。(ただ、なんとなくサポーターは前者が多く感じる。そうやってタイトルを取ってきたからか)

ケパにラストチャンスは来るか

ケパ・アリサバラガに復活の目があるというのは実はこの点である。ランパードは現実的なサッカーを取らず、哲学を貫くことを選択した。現王者相手に数的不利という「これ以下のない」状況でさえ貫いたという事実。それは同値で「何があろうと今季はボール保持を主体としたサッカーで行く」という宣言でもある。

代役候補と目されるメンディはそこまで足元が卓越した選手ではないと言われている。そしてケパは一本を除いて今日のフィードは及第点を優に超えてくるものだった。セーブやハイボール処理に関しても前述の通りだ。
つまり、「今日のサッカーを続けていくならケパにも勝機はある」ということだ。

とはいえやはり期待に応えられないセービングが続き、失点に直結するミスまで出てしまったとなると、あっさり切る可能性の方が当然ながら高い。メンディがやってくるまであと1試合だろうか。おそらくそれが1%残ったラストチャンスだろう。

Chelsea boss Frank Lampard with goalkeeper Kepa Arrizabalaga
(Football.Londonより)ミスを糾弾したランパードはもう一度チャンスを与えるか

最後に

というわけで今日はこんな感じです。逆張り!と言われてしまえばそれまでなんですが。今回に関してはかなり賛否両論のある試合になったと思います。ただどちらを取るにせよ、途中で諦めずに最後までやり抜いた点は素直に評価したいなと思います。

全然触れられませんでしたが、ジェームスとかトモリとか、奮闘した若手はよかったですね。

それではまた

~おしまい~

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