こんにちは。悔しいですね!
2月24日の深夜に行われたリーグ杯決勝、チェルシーはマンチェスターシティと120分の激闘の末PK戦で敗れました。
スコアは0-0、枠内シュートはもちろんシュート自体も少なく、スタッツだけ見れば退屈な試合にも思われますが、実際は一つのミスが命取りになる緊張感にあふれた鍔迫り合いという印象で、むしろ気を抜けるシーンがほとんどない試合でした。
前回対戦で6-0の完敗を喫していたチェルシーからすれば数日間のうちに修正を行い、拮抗した試合ができたのはポジティブな要素でしょう。またカラム・ハドソン・オドイ、ルベン・ロフタス・チーク、エメルソン・パルミエリといった今後レギュラーを担うべき選手たちが存在感を見せたのも良かったでしょう。
タイトルこそ逃しましたが、自信を失いかけていたチームの雰囲気の向上には繋がるような試合になるはずでした。
ところが試合終了間際の時点で事件が起こります
アリサバラガの交代拒否
延長後半終了間際、セルヒオ・アグエロのシュートを抑えたケパが倒れこみます。この試合2度目の負傷、メディカルが駆け寄る間に、すぐさまウィリー・カバジェロがユニフォーム姿になります。
しかし第4審が交代の電光掲示板を掲げる前に猛烈にケパがベンチに反抗。激しい身振りと「ノー」を連呼し、自分がいくと猛アピールします。ダビド・ルイスと主審のジョナサン・モスが近寄りますが、ルイスは少し言葉をかけるだけで明確なリアクションは取らないまま。鬼気迫る様子に他選手も見守るのみに留まりました。
猛烈な交代拒否に監督のサッリはブチ切れ。怒りのあまり試合終了を待たずドレッシングルームに下がろうとしたのを何とか堪えました。
結局折れたのはベンチ。複雑な表情のカバジェロと怒り心頭のサッリを残し、ケパは120分終了の笛をピッチで聞くことになりました。
その後もつれたPK戦の結果はご存知の通り。ケパは1本ストップしましたが、チェルシーは2本ミスがあり、準優勝でタイトルへの挑戦は終わりました。
この一件、単なる交代拒否ではなく、かなり問題の根は深いと思います。そこで一つ一つお互いの立場から振り返ってみましょう
サッリの意見
まずはサッリ側の言い分から見ていきましょう。
最初に言っておくべきなのは前提としてケパが負傷明けということです。ハムストリングの負傷があり、ELは休んでいました。サッリとしては最悪の事態も想定はしていたはずです
サッリの考え
・ケパはこの試合2度目の負傷だった
・カバジェロは元シティでPKにも強い
・自身の進退がかかっているとの報道
・戦術的交代の意味合いも0ではなかったはず
一部で指摘があったように、カバジェロを準備したのはさすがに100%戦術的な理由ではないと思います。サッリがこの試合交代枠を残していたのはアクシデント対応のはずで、かつてW杯でヤスパー・シレッセンがティム・クルルに代えられたような、いわゆるPK戦用GK交代ではないと思います。特にこの試合はシティの選手が2人アクシデントで交代していることも頭にはあったはずです。
また事前に通知していればあそこまでのアピールはしないはずです。
とはいえケパ負傷からカバジェロ準備までのスムーズさを見ると完全に頭から消していたわけでもないでしょう。これもあるな、程度には考えていたと思います。したがってこの状況になった時、サッリとしてはそこまで未練なく交代に踏み切ろうとしていたはずです
ケパの言い分
対するケパはどうでしょうか
・倒れたのは味方を休ませるため
・自身はPK戦を制して決勝に来ている
・大敗した相手に勝ってタイトルを取りたい
こうした考えがあったはずです。そして準備されたカバジェロを見て、100%アクシデント的交代と捉えたのは間違いないでしょう。屈辱を拭うためにも自分の力で勝ちたいと思った結果があの行為でしょう。
さて、これだけ見ると出たい選手と下げたい監督というよく、とは言えないまでも時々見る光景です。しかしチェルシーというチームだとそれ以上の意味を孕むシーンになりました
チェルシーの抱える深い闇
①選手の強すぎる発言力
チェルシーは選手の発言力が際立って強いチームと言われます。選手が反抗すれば、普通のクラブでは監督に干され、放出されることも少なくありません。ところがチェルシーでは、むしろ干す側の監督が解任されるという他チームとは異なる優先順位が度々取り上げられます。
元来ベテラン選手にこうした傾向が見られますが、若手で加入1年目のケパがこうした行動に出たのはチームの「伝統」と無関係ではないでしょう。
交代に不満を漏らすことは少なくありませんが、それも普通「交代後に」露見するものです。事実として彼がピッチに残った、すなわち選手が勝ったという結果は無視できない現実です。
②リーダー不在
ジョン・テリー、フランク・ランパード、ディディエ・ドログバがいた時代とは異なり、チェルシーはチームの精神的支柱の不在が指摘されるようになってきました。
失点後にガタガタと崩れる試合が増えたことも一因でしょう。
在籍年数では現ゲームキャプテンのセサル・アスピリクエタ、エースのエデン・アザール、一時離れていたとはいえ、CL優勝メンバーでもあるダビド・ルイスが群を抜いており、チームを引っ張る必要があります。
ところがアスピリクエタはいわゆる「背中で引っ張る」タイプでアザールも大声を出して鼓舞、という選手ではない上、サッリから「リーダーではない」と指摘されていました。チームキャプテンはギャリー・ケイヒルですが、試合どころかベンチにも入れない日々が続いています。
ルイスはケパと言葉を交わす仕草が見られましたが、追い出すわけでも引き止めるわけでもなく、判断を委ねる形を選びました。
テリーは「あってはならない」と試合後にコメントしており、仮に彼のような選手がいればケパも執拗なアピールはしなかったのではないでしょうか
③11人の個人
サッリは今のチームを11人の個人と称しました。チームになってない、ということですが、今回の一件でそれが透けて見えたような気がします。
ケパの猛烈なアピール、激昂するサッリ、混乱するコーチ陣に対してピッチ上の選手のリアクションはあまりにも薄いものでした。
もちろん選手たちも混乱していたのでしょうが、ケパを強引にでも下げる、あるいはサッリを説得するという選択肢はあったはずです。
結局一人で反抗したケパが勝ちましたが、チームがブレた状態でPK戦に突入したのはプラスにはならなかったでしょう。
試合後
敗れた後何度もメディアに取り沙汰されましたが、意外にも穏便に決着を迎えそうです。
サッリは自身が(完全に)戦術的交代を目論み、怪我での交代と捉えたケパとの認識の相違「のみ」が問題であったとコメント。
ケパも自身の非を認め翌日から謝罪と対話、チームも(大甘とは言え)罰金を課し、ケパの過ちということで決着がつきました。ダビド・ルイスも監督の求心力は十分と強調し、事態は収束を迎えつつあります。
サッリの志向するサッカーにおいてケパは重要なピースであり、チームとしてもかけた額を考えれば簡単に干せる選手ではありません。次節が強豪トッテナム戦であることも考慮するとスタメンが濃厚でしょう。
悪しき伝統を断ち切る
チェルシーは今季から従来のカウンターサッカーから大きく路線を変更し、ポゼッション主体のサッカーへ舵を切っています。
またこれまで「トップに定着できなかったユース」出身プレーヤーのオドイもまずまず出場機会を掴んでいます
結果が出なくなりつつあり、いつも通り解任論も出てきてはいますが、今は我慢の時ではないでしょうか
今回の一件でチェルシーの深く悪しき伝統がわかりやすく露見したと思います。過去のスタイルを捨て、新たなチャレンジを始めたチームに続き、こうした古き因習も振り払ってほしいものです。
ケパが完全に悪いのは間違いありませんが、ここ最近メンタルの弱さが指摘されるチームに反して、彼が見せた熱意自体は相当のものでした。
表し方は間違えたと思いますが、あれくらいの気持ちがないとこれから先ぶつかる強豪には勝てないでしょう。
今度は監督と選手が一つの方向を向いてその熱意を結果に結びつけてほしいと願うばかりです。
〜おしまい〜
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